中小企業でバランススコアカード(BSC)が使いにくい理由・活用時の注意点とその解決策

バランススコアカード(BSC)の4つの視点

バランススコアカード(BSC)とは

みなさんは、バランススコアカード(BSC)をご存知でしょうか?

バランススコアカード(BSC)は、キャプランとノートンが開発した、企業経営を4つの視点に分け、モニタリングするツールです。最初に、今の戦略を①財務の視点、②顧客の視点、③業務プロセスの視点、④学習と成長の視点、の4つに分解し、各々の戦略目標を達成するために不可欠な重要成功要因(KFS:Key Factor for Success)を定めます。

 

さらに、KFSを定量的な数値目標(KPI: Key Performance Indicator) に落とし込み、KPIの進捗を管理・フォローアップします。①財務の目標を頂点として、財務目標値の結果が得られるような因果関係のある戦略目標を②③④の項目ごとに立てるのも特徴です。

 

このバランススコアカード(BSC)を知った当時、中小企業診断士の資格取得の勉強をしていました。私にとって、4つの視点という網羅性と、それが具体的な行動に落とし込まれていく様は、まさに中小企業診断士2次試験教科(財務、マーケティング、生産管理、組織)とも重なり、考慮モレやダブりのない、万能なツールに思えたのを記憶しています。

 

でも、実際は万能なツールなんてありません。では、BSCの落とし穴はどこなのか、私自身の経験や他のコンサルタントの話を踏まえて、説明して参りたいと思います。

バランススコアカード(BSC)の活用の落とし穴~ケース1・A氏~

 全社でBSC導入が決定した当初、私はある法人顧客相手のシステム営業部署で主任をしていました。ちょうど経営の勉強でツールかぶれしていた私は、意気揚々とバランススコアカード(BSC)を作成し、自身およびチームのマネージメントに活用し始めました。KPIが守れたか、週次で部下とフォローアップミーティングも行い、これを続けてみました。

 

 しかし、やればやるほど、空回りしてピンボケな活動になり、顧客の心に響かず結果に繋がりませんでした。それどころか、KPIが重荷になり、やらないといけない他の活動との両立に苦しみ、私も部員も疲弊する一方でした。そしていつしか、実務でのバランススコアカード(BSC)を使った活動を諦め、バランススコアカード(BSC)は会社に戦略を報告する「ただの報告フォーマット」と化したのです。一体何が起こったのか、具体的にイメージしやすいように下図を使って説明します。

バランススコアカード(BSC)の戦略マップの作成例

 私は、①財務の「売上10%拡大」を狙って、②顧客に対して「新分野への提案」「新ニーズ獲得」をKFSに掲げました。同様に③、④も施策を作り、①②③④各々のKPIを決めました。②顧客KPIは、ご覧の通り「新提案1回/週」「顧客面談3回/週」です。

ところが、期も中頃に差し迫ったころ、私と懇意にして頂いている顧客から、かなり困った様子で、「業績悪化に伴い既に導入している弊社システムの維持費用を値下げしてほしい」という要求があったのです。

 

 これに対応するには、度重なる社内調整をせざるを得ず、大いに時間が割かれるのが想像できました。またそれは、当初計画した顧客KPIの達成ができないことも意味しました。もちろん値下げは売上を下げる行為です。これを受ければ、財務KPIも守れなくなります。

 

 当初は、バランススコアカード(BSC)と顧客要求の対応を両立しようと、部下や周りを巻き込んでもがきました。しかし、どちらもうまく進まず疲弊する一方でした。

 

「この状態が続くと共倒れになる、どちらかに集中すべきだ。」こう思った私は、本来の姿としてどうあるべきかに立ち返り、検討しました。熟慮した結果、懇意にしてくれている顧客の困っている様子が頭から離れず、KPIより優先すべき事項のように感じた私は、当時の課長と相談してバランススコアカード(BSC)の進捗管理を諦め、顧客要求(値下げ)を優先させたのです。

 

 結果、そのシステムの売上は若干落ちました。しかし、実は競合他社が業績悪化に苦しむ顧客上層部に仕掛けていた値引き攻勢を凌ぐことができ、失注という大きな痛手は被らずに済んだのです。また、顧客上層部にも感謝され、そのシステムの機能拡張(エンハンス)案件の引き合いを頂き、受注につなげる事ができました。結果、売上が上がり、なんとか財務KPIを守る事ができました。

 

バランススコアカード(BSC)の活用の落とし穴~ケース2・B氏~

 

もう一つ、事例を挙げておきましょう。

 

BSC導入コンサルティングを担当することになった私は、全社的な観点で導入を進めていました。最初に、教科書通り経営幹部と全社の財務KPI(売上と利益率)を決めて、それに沿ってBSC作成ガイダンスを各部門の導入責任者に行いました。全社のKPIを起点に、ロジカルに各々の活動計画につながるよう、指導しました。

 

 しかし、各々の作成経過の報告と相談を受けていた私は、あるおかしな点に気づきました。間接部門から上がってくるドラフトが、その部門に期待されている“本業”を、活動計画に落とせていなかったのです。

 

 例えば総務部門は、全社KPIにつながる間接費の削減額を財務KPIに掲げて、それを達成するための②顧客(ここでは社内他部署向けの総務サービス)や、③内部プロセス、④学習と成長、各々のKPIを挙げていました。しかし書かれていた内容は、経費削減に関わるペーパレス化や、社宅制度の廃止など、ビジョンや戦略性のかけらも無いものが並んでいました。

 

 もちろんムダな経費節減は大事なのですが、本来はこの総務部門が掲げるビジョン「従業員が希望を持ち安心して働ける仕組を提供する」に沿った、従業員のモチベーション向上策や、評価制度整備や給与制度改革など、になるべきです。しかし、「全社の財務KPIにつなげないといけない」という制約が、本来この部門に期待したい戦略と違う戦略を導き出してしまったのです。

 

 それどころか、従業員に評判が良く、従業員定着率に寄与していたいくつかの福利厚生制度の廃止(社宅制度の廃止等)など「今まで作り上げた経営安定の仕組み」の有効性を検討せずにコスト視点のみでメスを入れる案になっていました。このような傾向は、他の部門、特に間接部門に多く見られ、大いに私の頭を悩ませました。

 

さて、ケース1、ケース2でご紹介した通り、BSCには「特有の使いにくさ」があります。では「使いにくさ」の正体は何なのでしょう。

 

バランススコアカード(BSC)の特徴である、財務からのリンケージの罠(そこにビジョンはあるか)

バランススコアカード(BSC)の4つの視点

改めて、先程の2つのケースを振り返ると、

 

●ケース1(A氏)では、当時勤めていた会社に、「お客様と共に寄り添い、最も信頼されるパートナーになる」と言う理念、ビジョンがありました。振り返って考えてみると、入社当初からこのビジョンを徹底的に刷り込まれてきたA氏は、BSCの財務視点でリンケージされた顧客KPIと、会社のビジョンとのギャップに違和感を覚え、BSCの戦略を捨てることにしたのです。

 

●ケース2(B氏)も、やはり財務指標に囚われた結果、本来ビジョンに沿ってやるべき本業の戦略目標を見失ってしまった例です。

 

 「財務の視点」である売上や利益、コスト削減に繋がる活動計画をつくり、実行するBSCのロジックは、パッと見ると非常に合理的に見えます。しかし、財務の視点を起点に考え出された行動計画では、理念やビジョンの実現、経営の基本方針は意識されず、時に相反する関係にもなり得るのです。

 

 例えば、企業は様々なステークホルダーに支えられて成り立っています。そのステークホルダーの期待に応えるために、時には売上に繋がらない社会貢献活動なども行います。これは、企業理念やビジョンの実現のために行われます。もちろんみなさんは、この社会貢献活動が企業価値やブランド力を高めたという話は、よくご存知だと思います。

 

 そもそも、BSCも理念やビジョンを中心に4つの視点でバランス良く戦略を考え実行するツールです。ただ使いにくいのは、BSCはビジョンにつながるようなフォーマットになっておらず、ビジョンは暗黙の了解として常に意識して戦略を考える必要があるのです。しかも、一方で財務KPIとの因果関係(リンケージ)を強烈に意識しながら作らなければならないとなると、これは扱いづらいツールだと言わざるを得ません。

 

 

バランススコアカード(BSC)の特徴である、戦略マップ(成長志向)の罠(安定性の視点を見落としていないか)

バランススコアカード(BSC)のモニタリング

 もう一つの罠は、成長志向、利益拡大志向に偏った戦略をとってしまうことです。企業活動において、予算編成では売上、利益共に右肩上がりの計画を立てるのが常識となっています。バランススコアカード(BSC)はまず戦略マップを作成していきますが、財務の視点では売上・利益のアップというのが多く見られます。

 

 バランススコアカード(BSC)のスコアカードにおける財務KPIにおいても例外ではなく、当然予算を意識して作成されることになります。つまり、すでにトップから(または予算編成によって)与えられた右肩あがりの必達数値に沿ってバランススコアカード(BSC)を作るので、出来上がったBSCは、当然成長を前提としたものに仕上がります。

 

 しかし実態は、ケース1のように、市場(お客様)が低迷している場合も当然あります。事例のように市場が成長していない状況で、新分野に投資を促すような提案をガンガンしても、なかなか受け入れられません。

 

 またケース2のように、成長のために何としても利益を出さなければいけないという偏った視点に陥ると、特に間接部門の場合などは、本来の部門の役割でもある経営安定化の視点を見失う危険性があるのです。

 

ですので、バランススコアカード(BSC)作成時にそういった「成長志向の罠」を念頭におき、戦略構築の段階から経営の「安定化」に目を配っておかなければならなくなります

 

 このようにバランススコアカード(BSC)には、その特徴が故の「特有の使いにくさ」があります。一方で、非常にロジカルであり、うまく使えれば優れたツールに変身します。

 

そこで、このたび当社では、①財務リンケージに拘らないビジョンを中心にした戦略構築、②「成長」と「安定」のバランスを意識した戦略構築、という課題を克服すべく、バランススコアカード(BSC)を改良した新しい戦略構築ツールを開発しました。

 

もし読者の方で、ビジョンに沿ってバランスよく網羅的な視点で会社の戦略と行動計画を整備したい、バランススコアカード(BSC)を作成してみたけど、どうもうまくいかない、などお悩みの方がいらっしゃれば、ご相談ください。

 

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